
聞き手 所 幸子さん
埼玉県所沢市在住の70歳専業主婦。定年後の夫と二人暮らしで、独立した子どもや孫5人と交流が盛ん。ガーデニングや国内旅行、孫との時間を生きがいにしている。家族に迷惑をかけず元気でいたいと願う一方、3年前から続く右股関節の痛みが悪化し、将来への不安を抱えながら人工股関節手術を検討している。
(※本稿に登場する所幸子さんは架空の人物です)
臼蓋形成不全の痛みの特徴とは
股関節の痛みの原因に臼蓋形成不全があると聞きました。どんな痛みが特徴なのですか?
もっとも典型的なのは、足の付け根、つまり鼠径(そけい)部の痛みです。
以下のようなシーンで痛みが見られることがあります。
- 立ち上がるときや歩き始め
- 階段を昇り降りするとき
- 運動のあと
- 長時間歩いたあと
- 捻るような姿勢をしたとき
- 和式トイレなどで深く屈むとき
ただし臼蓋形成不全でなくてもこれらのシーンで痛みが出ることは珍しくないため、初期には「使いすぎかな」「疲れただけかな」と見過ごされることも少なくありません。(*1)
発症すると必ず痛みが出るのですか?
臼蓋形成不全だけでは症状が出ないこともあります。
しかし臼蓋形成不全が変形性股関節症に進行すると、徐々に痛みが強くなってくるので、少しでも早く違和感や痛みに気づくことが大切です。
鼠径部以外にも痛みが出ることはありますか?
はい。
股関節の異常は、お尻や太もも、時に膝まわりの痛みとして感じられることがあります。
そのため、腰や膝のトラブルだと思って受診し、後から股関節が原因とわかるケースもあります。
特に、立ち上がりや歩き始めの動作で痛みが出る場合は、股関節由来の可能性も考える必要があります。
進行すると、どのような症状に変わっていくのですか。
変形性股関節症が進むと、痛みは一時的なものでなくなり、歩いているときや長時間立っているときにも痛みが続くようになります。
さらに、股関節の可動域が落ちてくるため、爪切りがしにくい、靴下が履きにくい、あぐらがかけない、正座や和式トイレがつらい、階段の昇り降りが難しい、車やバスの乗り降りがやりづらくなる、といった不自由が目立つようになります。

末期になるとどうなりますか?
痛みがさらに強くなり、場合によっては持続痛や夜間痛が出てきます。
つまり、「動いたときだけ痛い」段階を超えて、じっとしていても痛い、夜寝ていても目が覚める、という状態になることがあります。
この段階では、股関節の損傷がひどくなり、関節の機能障害も強くなっていることが少なくありません。
痛みのほかに、臼蓋形成不全を疑うサインはありますか?
歩き方がぎこちなくなる、足をかばって体が左右に揺れる、といった変化も重要です。
そのほか「股関節の開き具合が左右で異なる」「特定の方向に動かすと痛みや詰まる感じがする」といった場合にも、臼蓋形成不全のサインかもしれません。

(*1) 公益社団法人 日本整形外科学会
まとめ
臼蓋形成不全では、初期に足の付け根の痛みが出やすく、立ち上がりや歩き始め、階段、長時間歩行などで悪化します。
進行して変形性股関節症を発症すると、お尻や太もも、膝にも痛みが広がり、靴下を履く、あぐらをかく、階段を上るといった動作もつらくなります。
末期には持続痛や夜間痛、歩き方の変化もみられます。
変形性股関節症はいわゆる股関節のエイジング現象です。臼蓋形成不全の患者さんはその構造上、股関節のエイジングが人よりも進行しやすいため変形性股関節症になりやすいのです。
初期では漠然とした股関節周囲の違和感のみの患者さんもいます。違和感や痛みを感じたら、整形外科を受診し、早期に診断されることで少しでも股関節のエイジングの進行をおさえることが可能になります。
股関節の構造異常、臼蓋形成不全とは
そもそも臼蓋形成不全とは、どのような状態ですか。
股関節は、骨盤側の受け皿である「臼蓋」と、大腿骨側の丸い「骨頭」が組み合わさってできています。
臼蓋形成不全とは、この受け皿が浅かったり小さかったりして、大腿骨頭を十分に包み込めていない状態です。
つまり臼蓋形成不全は、股関節の安定性が弱く、体重がかかったときの力が一部に集中しやすい構造異常と言えるのです。

それだけで、なぜ痛みが出るのですか。
本来なら広い面で分散されるはずの荷重が、かぶりの浅い股関節では限られた部位に集中してしまいます。
その結果、関節唇や軟骨に過剰な負担がかかり、痛みや炎症などを引き起こしやすくなるのです。
何人に一人発症するのですか?
研究によると、成人男性の0~2%、女性の2~7%が臼蓋形成不全であるということがわかっており、やや女性に多い傾向があります。(*2)
また世界的に見ると、欧米人に比べて日本人に多く発症していることがわかっています。
これには「日本人の臼蓋は欧米人に比べて浅く、骨頭のかぶりが不十分」という骨格的な特徴や、日本固有の生活習慣などが関係しているという説も聞かれています。(*3)
臼蓋形成不全は遺伝する病気なのですか?
近年、遺伝子の研究が進み、日本人には臼蓋形成不全の原因となる遺伝子が存在していることが明らかになりつつあります。
臼蓋形成不全そのものが遺伝するわけではありませんが、一般的には、受け皿の浅さなど骨格の特徴が遺伝的に受け継がれやすいと解釈されています。
もし家族に診断された人がいる場合は、股関節の検診を受けるなど、早期に気づくことが大切です。
(*4)(*5)
(*2) 公益社団法人 日本整形外科学会
(*3) 中外医学社
(*4) 八戸市医師会
(*5) 公益財団法人 日本股関節研究振興財団
まとめ
臼蓋形成不全は、股関節の受け皿である臼蓋が浅く、大腿骨頭を十分に支えられない状態です。
そのため荷重が一部に集中し、関節唇や軟骨に負担がかかって痛みが生じます。
女性や日本人に比較的多く、遺伝的な素因も関与すると考えられています。
家族歴がある場合は、早めに検査を受けることが大切です。
臼蓋とは股関節の屋根にあたる部分の名称で、歩行する、階段を登るといった日常動作で体重の数倍もの負荷を受けています。
臼蓋形成不全とはその屋根が通常よりも不十分な状態のことです。体重の数倍の負荷を受ける屋根の面積が不十分だと、股関節内の関節軟骨や関節唇といった構造物が損傷を受けやすく、変形性股関節症へと進行します。特に日本人の女性に多いのが特徴であり遺伝的な要因も指摘されておりますので、血縁者に変形性股関節症の方がいる場合は病院を受診して検査をすることをお勧めします。
放置すると変形性股関節症へ進行するリスク
臼蓋形成不全を放置するとどうなるのですか?
かぶりの浅い股関節では、体重がかかったときの圧力が一部に集中し、関節唇や軟骨のすり減りが起こりやすくなります。
そのため、時間とともに関節の傷みが蓄積し、変形性股関節症へ進みやすくなります。一般に、成人に見られる臼蓋形成不全は変形性股関節症の前段階と考えられています。
特に日本人の中高年女性においては、変形性股関節症の約8割が臼蓋形成不全を含む子供の時の発育性股関節形成不全に起因しているという報告もあります。(*6)
臼蓋形成不全の人は、必ず変形性股関節症になるのでしょうか?
いえ、進行しやすいかどうかは、被覆不足の程度によって決まります。
臼蓋が大腿骨頭を覆う角度のことをCE角と言い、成人の正常値は25〜30度とされています。
これが20度以下の場合には、臼蓋形成不全と診断されます。
このCE角の数値が小さいほど臼蓋形成不全が重症であると考えられ、16度未満は「重度」と分類されることが多くなります。また、10度以下の症例では、変形性股関節症が進行しやすいとされています。

そのほか、臼蓋形成不全が変形性股関節症へ進行するには、どのような要素が関わっているのですか?
臼蓋形成不全は股関節唇(こかんせつしん)損傷と深い関わりがあり、これが変形性股関節症への進行要因になることがわかっています。
股関節唇とは臼蓋の縁にある線維性軟骨組織で、これが裂けたり剥がれたりすることを股関節唇損傷といいます。

研究により、股関節痛があり、臼蓋形成不全による変形性股関節症の大部分に股関節唇損傷がみられることがわかっています。
また、中等度の臼蓋形成不全では、股関節唇の断裂がない場合に比べ、ある場合では50歳時の変形性股関節症の発症リスクが高くなることも示されています。つまり、痛みの背景には股関節唇損傷が隠れていることが多いのです。(*7)
痛みなどの症状が軽いからといって、放置することは危険なのですね。
臼蓋形成不全では、症状の強さと関節の傷みが必ずしも一致しません。
痛みが軽くても、股関節の中では股関節唇損傷や軟骨変性が進んでいることがあります。
特に、歩き方が変わった、靴下が履きにくいなどの機能低下が見られる、といった場合には単なる疲れではなく関節障害が進行していることを疑った方が良いでしょう。
(*6) 公益社団法人 日本整形外科学会
(*7) 変形性股関節症診療ガイドライン(改訂第 3 版)[案]
まとめ
臼蓋形成不全を放置すると、股関節に負担が集中し、関節唇や軟骨の傷みが進んで、変形性股関節症へ移行しやすくなります。
とくにCE角が小さいほど変形性股関節症へ進行しやすく、股関節唇損傷も発症リスクを高めます。
痛みが軽くても内部で障害が進むことがあるため、歩き方の変化や動作のしづらさがあれば早めの受診が大切です。
臼蓋形成不全の患者さんの中でも特に重症の患者さんは変形性股関節症になりやすいことがわかっています。
ただし日常生活において股関節の負荷を減らしたり、股関節の柔軟性を向上させたり、周囲の筋力を鍛えることで、進行を遅らせることが可能です。早期診断が鍵になります。
臼蓋形成不全の先天的要因と発症の関係性
臼蓋形成不全は、先天的な病気なのですか。
先天的な病気という側面はありますが、必ずしも「先天的」ということだけで説明できるわけではありません。
赤ちゃんの股関節が脱臼していたり、いろいろな理由で不安定になったりしていることを発育性股関節形成不全といいますが、臼蓋形成不全はその一つの状態として位置付けられています。
臼蓋形成不全が起きる要因には、「家族内に臼蓋形成不全の人がいる」という遺伝的要因のほか、成長過程で股関節の生育が不完全だった、赤ちゃんの時期に股関節をまっすぐ伸ばした状態で過ごす時間が長かった、といった要因も指摘されています。
赤ちゃんの臼蓋形成不全は治らないのですか?
いえ、赤ちゃんの発育環境を良好に保つなど特定の条件を満たせば、多くの場合、成長に伴って臼蓋形成不全は自然と修復されていきます。
しかし問題なのは、成人になっても臼蓋形成不全が残っているケースです。
おそらく、赤ちゃんの頃の臼蓋形成不全が残ったのだろうと考えられていますが、成人の臼蓋形成不全がいつ、どのようにして発症したかについてはいまだ判明していません。(*8)
もともと臼蓋形成不全だった人が、成長するにつれて症状を悪化させてしまう、ということですか?
体重増加、長時間の立ち仕事、股関節に負担の大きい動作の積み重ねなどが、痛みや関節障害の表面化を早める可能性があります。
つまり、もともと股関節に構造的な弱さがあり、そのうえに日常の負担が重なって症状が出ると考えるとわかりやすいでしょう。

大人になって臼蓋形成不全に気づくのは、どんなタイミングが多いのですか?
子どもの頃に臼蓋形成不全を指摘されず、そのまま放置していると、10代後半から20代になって股関節の痛みや亜脱臼などの症状が出てきます。そのようなタイミングで気づく人が多いようです。
また、中学生くらいの時期に成長期とスポーツによる負荷が重なり股関節痛が生じ、臼蓋形成不全に気づくこともあります。
30代から40代になって股関節に軽い痛みが出たタイミングで気づくこともあります。
気づいた段階で適切に治療をすれば、変形性股関節症へ進行させずに済むのですか?
臼蓋形成不全は正しい治療を行うことで痛みを軽減したり、進行を遅くしたりすることは十分可能です。
そのため、「まだ若いから大丈夫」「すぐ痛みが消えるから問題ない」などと油断せず、おかしいなと思ったら早めに整形外科を受診することが大切です。
(*8) 公益社団法人 日本整形外科学会
まとめ
臼蓋形成不全には先天的な側面がありますが、遺伝だけで決まる病気ではありません。
乳児期の股関節の発育不全や生活環境が背景にあることもあり、成長や日常の負担で大人になってから痛みとして表面化することがあります。早めに気づいて適切に治療すれば、進行を遅らせることは十分可能です。
臼蓋形成不全は遺伝的な要因もありますが、後天的な側面もあります。
子供の頃の生活状態や運動環境によって赤ちゃんのときの臼蓋形成不全が改善されることもあります。
大切なことはご自身が違和感、痛みを感じた時点で放置しないことです。病院で検査をして診断を受けることが一番大切だと考えます。
臼蓋形成不全の検査と診断
臼蓋形成不全は、どのように診断するのですか。
問診、診察、レントゲン検査で診断します。
一般的には乳児でも成人でも最終的な判定はレントゲン検査で行います。(*9)
問診や診察ではどんな点を確認するのですか?
問診では、「いつから」「どの部分が」「どのように痛むのか」「どのような時に痛みが強くなるのか」といったことを詳しく確認します。また「日常生活ではどんなことに困っているのか」についても、具体的にお聞きします。
診察では、医師が直接股関節の状態を確認する身体所見を行います。実際に股関節を動かしてもらい、どの程度動くか、どのように動かすと痛みが出るのかといったことを観察します。
そのあと、レントゲン検査を行うのですね。
はい。問診と診察で得られた情報をもとに、レントゲン検査でさらに詳しく精査します。
レントゲン検査は基本的に起立した状態で行い、体重をかけたときの股関節の状態を確認することで、臼蓋が大腿骨頭をどの程度覆っているか、関節軟骨がどれだけすり減っているか、骨の変形や骨棘(こつきょく)があるかなどを評価します。
MRIやCTが必要になることもありますか。
必要に応じてCTやMRIを行うこともあります。
特に、レントゲンで骨の形は評価できますが、股関節唇損傷や軟骨病変の程度はMRIのほうがわかりやすいことがあります。また、骨の形状や骨棘の位置などを詳しく調べるために、CT検査を行うこともあります。

股関節の痛みの原因が本当に臼蓋形成不全なのか、しっかり確認することが必要なのですね。
その通りです。
股関節の痛みは腰や膝の痛みと紛らわしいことがあり、鑑別が難しい症例もあります。
そのため詳細な病歴、身体所見、単純X線検査が重要であり、必要に応じてさらに詳細な画像検査を行いながら、慎重に判断します。
(*9) 公益社団法人 日本整形外科学会
まとめ
臼蓋形成不全は、問診や診察で痛み方や動かしにくさを確認したうえで、レントゲン検査によって診断します。
必要に応じてMRIやCTを追加し、関節唇や軟骨の傷み、骨の形まで詳しく調べます。
腰や膝の病気との鑑別も重要であり、症状と画像を総合して慎重に判断します。
基本的にはX線検査で臼蓋形成不全の診断はつけることが可能です。
その後、患者さんの状態に応じて追加で検査をすることもあります。
臼蓋形成不全の治し方
臼蓋形成不全の治し方について教えてください。
治療法は、痛みの強さ、年齢、活動性、レントゲンでの進行度、股関節唇や軟骨の傷み具合を総合して選びます。
症状が軽く、関節症がまだ進んでいない場合は保存療法から始めることが多く、変形が進んでいる場合や生活における障害が強い場合は手術を検討します。
保存療法だけで治ることもありますか。
保存療法は痛みを和らげ、日常生活を送りやすくし、進行をできるだけ遅らせるための治療です。
ただし、浅い臼蓋そのものを元の形に戻すわけではありません。
そのため、保存療法で症状をコントロールしながら経過をみるのか、あるいは将来を見据えて手術を考えるのかを、画像所見と生活状況の両方から判断する必要があります。
1. 保存療法
保存療法では、具体的に何をするのですか。
初期のうちは、どの動作で痛みが強くなるのかをよく観察し、日常生活の中で股関節に負担をかけにくい動きを心がけることが大切です。
痛みを和らげるために薬を常用するのではなく、症状が強いときや負担が避けられない場面で使うのがよいでしょう。(*10)
それから、肥満があれば減量も重要です。体重が1kg増えると、歩くときには股関節にその3〜4倍の負担がかかるとされています。
そのため肥満気味の方は股関節への負担を減らすため、適正体重に戻すことを意識しましょう。
また、日常的に杖を使うことも股関節の負荷を軽減するには有効です。
運動は行った方が良いのでしょうか?
はい。
筋力が低下して衰えるとますます股関節への負担が増えてしまうため、筋力トレーニングやストレッチは重要です。
水中歩行や水泳を無理のない範囲で行い、運動は痛みを見ながら少しずつ進めましょう。
痛みを我慢して無理に鍛えるのは逆効果になり得るため、理学療法士の指導下で進めるのが理想です。

それらを続けても効果が出ない場合には、手術を検討するのですか?
こうした治療や生活習慣の改善を行っても痛みがとれず、日常生活に支障が及んでいる場合には手術を考えます。
股関節の手術というと、人工股関節置換術を思い浮かべる方も多いかもしれませんが、まだ初期の段階であれば、ご自分の骨を残す術式を選択することも可能です。
タイミングを逃さず、適切な時期に手術へ切り替えることを心がけましょう。(*10)
(*10) 公益社団法人 日本整形外科学会
2. 手術療法
手術にはどのような種類がありますか。
大きく分けると、関節を温存する骨切り術と、人工股関節全置換術があります。
患者さんの年齢や活動性、仕事、生活環境などを考慮して、どちらを行うか選択します。
骨切り術はどんな時に行われるのですか?
日本の変形性股関節症は、臼蓋形成不全を背景に発症することが多いため、骨頭の被覆を改善し、股関節のかみ合わせを整える骨切り術が行われてきました。
なかでも最も広く普及しているのが寛骨臼(かんこつきゅう)回転骨切り術(寛骨臼移動術)です。そのほか、キアリー骨盤骨切り術や寛骨臼形成術などもあり、骨頭の変形や臼蓋形成不全の程度に応じて適した術式が選ばれます。
これらの手術は、特に若年から中年の患者さんで、症状がそれほど進行していない前股関節症や初期変形性股関節症で良好な長期成績が報告されており、将来が長い患者さんでは、まず関節を残す治療を検討することが勧められます。(*11)

骨切り術にはどのようなメリットがありますか?
ご自分の関節を残すことができるため、術後の活動制限が比較的少ないということが挙げられます。
そのため、将来が長い患者さんや活動性の高い患者さんに推奨されています。
一方、入院期間やリハビリ期間が比較的長いということがデメリットといえるでしょう。
人工股関節は、どんな場合に選ばれるのですか。
進行期から末期の変形性股関節症となり、強い痛みや生活障害がある場合には、人工股関節全置換術が有力な選択肢になります。
関節温存術は中年期の進行期から末期の変形性股関節症でも、症状を和らげたり、自分の関節を一定期間保ったりする効果が期待できます。ただし、その効果は前股関節症や初期股関節症に比べると低く、術後に関節を長く保てる割合も下がります。
そのため、進行した症例では人工股関節全置換術の可能性も視野に入れながら、治療方針を決めることが大切です。(*11)
人工関節にはどんなメリットがありますか?
最大のメリットは、痛みを大幅に減らすことができるという点です。
また、骨切り術に比べて術後の回復が早く、入院やリハビリの期間を短くできるというのもメリットです。
しかし骨切り術と比べて、日常生活で制限されることが多い、長期的に人工関節が緩む可能性がある、脱臼や感染症など合併症のリスクがあるといったデメリットもあります。
どちらの術式を選ぶか、迷いそうです。
そのときは年齢に加えて、ご自分の活動量や関節の状態も判断基準にすると良いでしょう。
たとえば、比較的若くて活動性が高く、関節軟骨の状態が保たれている場合には骨切り術が有力な選択肢となります。
一方、痛みが強く、関節の変形が進行している場合には、人工股関節置換術が適しているといえます。
それぞれの治療法のメリットとデメリットについて医師から十分な説明を受け、ご自分の生活や状況に合った治療法を選択するようにしましょう。
(*11) 変形性股関節症診療ガイドライン(改訂第 3 版)[案]
まとめ
臼蓋形成不全の治療法は、痛みの強さ、年齢、活動性、関節の変形の程度などを総合して選択します。
保存療法では、痛みを悪化させる動作を避け、体重管理や杖の使用、運動療法などで股関節への負担を減らします。
ただし根本的な治療ではないため、症状が強い場合や進行例では手術を検討します。
まだ若く、軟骨の状態が良ければ骨切り術で関節温存を目指し、変形が進んでいれば人工股関節置換術を選択するのが基本です。
臼蓋形成不全の治療は、患者さんの背景を総合的に考え、患者さんと相談しながら決定します。保存的に治療する場合、減量や杖の使用、リハビリなど、股関節への負担を減らすことを主体に行います。ただし症状が強い場合や将来のことを考えて手術を検討するケースもあります。若年で軟骨の状態が良ければ骨切り術で関節温存を目指し、関節温存が困難と考えられた場合は人工股関節置換術を選択します。
臼蓋形成不全の悪化を防ぐための注意点
日常生活で、気をつけるべきことは何ですか。
もっとも大切なのは、痛みを我慢して無理を続けないことです。
長時間の立ち仕事、重い物を持つ作業、痛みをこらえて歩き続けることなどは、症状悪化のきっかけになるので避けるようにしましょう。
そのほか、避けた方が良い行動はありますか?
一般に、股関節の形態に問題がある場合には、ジャンプや着地、急な方向転換を頻繁に行うスポーツは避けた方が良いとされています。
たとえばサッカー、バスケットボール、バレーボール、マラソンなどは控えた方が良いでしょう。
また、ウェイトトレーニングや、誤った姿勢でのスクワットなどのトレーニングも股関節に負荷をかけるため、避けた方が賢明です。
反対に水泳や水中ウォーキング、自転車は関節への負担が少なく、筋力維持に効果的なので推奨されています。
ただし股関節の状態などによって最適な運動や運動量は異なるため、医師に確認することをお勧めします。
整体やセルフケアで様子を見てもよいですか。
整体やマッサージで筋肉の張りが和らぎ、楽に感じることはありますが、それらによって骨のかぶり不足そのものが改善されるわけではありません。
臼蓋形成不全は画像で評価する構造の問題なので、症状が続くなら自己流ケアだけで済ませず、レントゲンを含めた整形外科での評価を受けることが大切です。
症状を感じたら早めに受診することが大切ですね。
早期に受診すれば、まだ保存療法で対応できるのか、骨切り術が検討できるのか、あるいは人工股関節が必要な段階なのかを見極めやすくなります。
反対に、受診が遅れれば人工股関節置換術しか選択肢が残されていない、といったことにもなる場合もあります。
治療の選択肢を増やすためにも、ぜひ、股関節に違和感や痛みを覚えたら早めに受診してほしいと思います。
まとめ
臼蓋形成不全の悪化を防ぐには、痛みを我慢して無理をしないことが大切です。
股関節に強い負担がかかる動作やスポーツは避け、状態に合った運動を選びましょう。
整体やセルフケアだけで済ませず、症状があれば早めに整形外科を受診することが、治療の選択肢を広げることにつながります。
予防策の基本は股関節に負担をかけない日常生活を送り適切な運動・ケアを行うことです。
臼蓋形成不全の診断後、自己流のトレーニングをしている患者さんを時折見かけますが、実は股関節に負担を過度にかけるトレーニングを選択しているケースも多く見られます。
整形外科医師や理学療法士に適切なアドバイスを受けた上で、トレーニングを継続することが大切と考えます。
全体のまとめ
臼蓋形成不全は、股関節の受け皿が浅いために荷重が一部へ集中し、初期には鼠径部痛、進行するとお尻や太もも、膝の痛み、可動域制限、歩行の変化などを招く病気です。
放置すると関節唇損傷や軟骨の傷みが進み、変形性股関節症へ移行することがあります。
診断は問診、診察、レントゲンを基本に、必要に応じてMRIやCTを追加して行います。
治療は保存療法と手術療法があり、年齢や進行度、生活への支障を踏まえて選択します。治療の選択肢を広げるためにも痛みを我慢せず、早めに受診することを心がけましょう。
臼蓋形成不全は変形性股関節症へ進行する可能性が高い疾患です。
早期に診断し早期に治療を開始することでその進行を抑えることが可能です。
股関節の違和感、痛みに気がついたら専門医を受診してください。
ポイント整理
- 臼蓋形成不全では、まず鼠径部痛が出やすい
- 痛みはお尻や太もも、膝に広がることもある
- 放置すると変形性股関節症へ進行するおそれがある
- 診断には問診、診察、レントゲン検査が基本になる
- 治療は保存療法と手術療法を状態に応じて選ぶ
- 悪化を防ぐには、無理を避けて早めに受診することが重要である
